その131 身体技術上達試論⑥

動きの質を高める

 前回は太極拳と速剣(若手剣士のスピーディーな打ち込む動作の剣道)を対比して、パラパラ漫画や破線に喩え「動きの質」について述べました。
 太極拳の動きは、「———————」のように木目細かく、スローモーション映画のような技のつくり上げ。
 速剣は、〝いま、ここ〟の機会をとらえようとするため「 -  -  -  -  – 」のように飛び込む間に合わせ。

 剣道も太極拳と同じく精緻に技をつくり上げればよいわけですが、そうもいきません。
 上達途上のレベルにおいて相互稽古や試合を行うとなれば、〝いま、ここ〟の機会に間に合わせ、当てんがため、いきおいサイレント映画のような粗い動きとなります。

 ところが長年修錬を積み重ねると、多くの剣士は、これに飽き足らず、速剣から脱し本格剣道を指向するようになります。
 姿勢、構えなどの外形を整え、また動きそのものの質をバージョンアップさせようとします。
 このバージョンアップを繰り返し、一つ一つ高い段位に昇っていくのが修業の道筋と言えましょう。

 しかし静止場面における姿勢や構えは容易に整えることができても、動きの質をバージョンアップさせるのは、そう簡単なことではありません。
 太極拳のように質のよい動きを身につけるのは至難の業です。
 「飛ぶ」足づかいから脱却し、粒子の木目細かくゆっくりとした動きを身につけなければならないからです。

 たびたび『五輪書』が出てきますが、質のよい身動きを身につけようと思われる方は、ぜひ次の文言を熟読玩味し、実践に移してください。

[水之巻 足づかひの事]
 足づかいは、ことによりて大小・遅速ありとも、常にあゆむがごとし。足に飛足、浮足、ふみすゆる足とて其三つ、きらふ足也。

[水の巻 巻末]
 太刀の道を覚へて、惣躰自由(やわらか)になり、心のきゝ出でて道の拍子をしり、おのれと太刀も手さへて、身も足も心の儘にほどけたる時に随い …中略… 緩々(ゆるゆる)と思ひ、此法をおこふ事

[風之巻 他の兵法にはやきを用ゐる事]
 兵法のはやきといふ所、実(まこと)の道にあらず。はやきといふ事は、物毎に拍子の間にあはざるによつて、はやきおそきといふ心也。其道上手になりては、はやく見へざる物也。 …中略… はやきはこけるといひて、間にあはず、勿論おそきも悪しし。是も上手のする事は緩々と見へて、間のぬけざる所也。
 諸事しつけたるもののする事は、いそがしく見えざる物也。此たとへをもつて、道の理をしるべし。…中略… 太刀はいよいよはやくきる事なし。はやくきらんとすれば、扇・小刀のやうにはあらで、ちゃくときれば、少しもきれざるもの也。能々分別すべし。大分の兵法にしても、はやくいそぐ心わろし。枕をおさゆるといふ心にては、少しもおそき事はなき事也。亦人のむさとはやき事などには、そむくといひて、静かになり、ひとにつかざること肝要なり。此心工夫・鍛練有るべき事也。

 いかがですか。
 武蔵の言う身動きや太刀つかいは、爆発と居つきを繰り返す速剣とは一線を画し、極めて太極拳に近い動きを示すものであります。
 では、このような身動きを身につける修錬とはどのようなものでしょう。
 次回は、不肖わたくしが行ってきた修錬の方法を紹介いたします。
つづく
頓真

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